最初はね。まあ初めてならいきなりやるっていうのもなんだし一度ぐらい失敗したって男の
恥にはならないからいいやとか怯える彼もかわいーなーなんて呑気なこともいってられた
さ。
 回目でさ。いいかげん私たちも次のステップにすすまないとやばくないですかみたいの
こといったらそれじゃぁ行ってみようとかいうノリで着いたはいいけどやっぱり怖いとか言
い出して気丈な彼が泣き出すものだからそれ以上のことができなくっていいんですよ心の準備
が出来てからでとか男らしいこともいってやったさ。
 でもさ、回目のアレはさ。
 いくらなんでもひどくない?
 確かに強引だったさ。ああ、認めようじゃないか。確かにほとんど騙すようにホテルに連れ込
んで押し倒すようにベットに縛り付けたさ。そしたらさ。
 奴はなにをしたと思う?
 蹴ったよ。顔面を。いや、マジで。(怒)
 そして彼は逃走した。(完)
 いや、完で終わったらまずいからさ、その後ソッコーで連絡いれたよもちろん。
 そしたら聞きなれたあのセリフ。『ただいま電波の届かないところにあるか、電源が入っ
ていないため〜……♪』
 って、それが三日間続くってどういうこと!?
 はあ?いつもと口調がちがくないか?
 私だってキレてる時ぐらい現代っ子風に言わせてくれよ!(泣)
 で、なんの話をしてるんだって?
 だーかーらー!恋人同士の夜の営みのことだよ!(激怒)



                                        猫の夜想



 「……なあ、月。」
 「…………。」
 「別に俺はどちらの味方もしないが、客観的に見ていた感想をいうぞ。お前が悪い。」
 「……………。」
 「だってだ。3回も相手は待ったんだぞ?それで三回目お前は顔面を蹴ったんだぞ。しかも靴
で。迷いもなく。気持ちいいくらいに。」
 「………………。」
 それまで机にうっつぶしていた月が、むくりと起き上がった。後ろで延々と諭しているリューク
を見ずに、子供のように口を尖らす。
 「僕は悪くない。」
 言い切った。はっきりと言い切った。そして続ける。
 「が、もし……もしリュークがLと同じ立場だったら…その…僕のこと…どうする?」
 「キレてるな。そしてソッコー相手の意思に関係なく犯ってる。」
 「…………………。」
 ばたんっとまた頭を机の上に落とした。まるで漫画のように。
 「…じゃあ…次会った時、僕は強姦されちゃうのか……処女喪失か……」
 「あーいやーそのーなんだ、きっと三回も待っててくれた相手だ。怒ってないと思うぞ。」
 たぶん。
 「本当?」
 首だけを動かし、じーっと疑い深い子猫のような瞳でリュークを見る。
 じーっっと。
 じーっっっと。
 リュークは考えた。自分の言葉でこれからの行動が決まっっちゃったりするのか?この男の
性をしらない子猫を、発情期の犬の前に差し出すことが、果たして自分に出来るだろうか?
 否、できるはずがない。
 「……やっぱ、犯られちゃうんじゃないか?」
 「僕、もう外でない。ずっと家の中でデスノート書いてる。男はみんなオオカミだ……」
 「わー!嘘嘘嘘嘘!冗談だ!俺が悪かった!」



 「……ちょっといいですか。」
 「な……なんですか?仕事もしないでいきなり……」
 爪を噛み噛み、体育座り。いつも以上に目の下にクマをつくっているLが、後ろで資料を読ん
でいた松田に声をかけた。
 「……女性と付き合ったことはありますか?」
 「はあ?」
 すっとんきょんな声をあげて、松田は周りを見回した。無駄口をたたいて怒る他の捜査員が
いないことを確認して、
 「そりゃ、この齢ですから。いましたよ。今はフリーですけど。」
 「ベットでの関係をもたれたことは?」
 「そりゃ……この齢ですから……」
 Lは一拍置いて、一気に言った。
 「これはあくまで私の友人の父親の知り合いの親戚のお隣さんのお兄さんが相談してきたこ
となんですが……」
 「なんですかそのめちゃめちゃ遠い関係は?」
 「気にしないでください。そのお兄さんが……彼女がベットの関係を怖がって困ってるらしいん
ですよ。どうも私にはそのへんどう回答したらいいのかわからなくて……貴方だったらどうしま
すか?」
 「あー…僕の彼女にもいましたねー。」
 「どうしました!?無理やり……とか?」
 「それ、一番やっちゃいけませんよ。相手が怖がってるならトラウマになりますよ。」
 「………………。」
 Lは目線をそらし、汗をぬぐった。
 「……じゃあ、どうすればいいんでしょう……?」
 「僕がやった方法はですねー……」
 松田はにこやかにその方法を明かした。



 「……で……話ってなにさ……?」
 月は警戒モードを最大限にしてLの言葉を待った。
 呼び出されたのは捜査本部がおかれているホテルの一室。積みあがっている資料に囲まれ
て、Lがこちらに背を向けてすわっている。
 アレから4日目。久しぶりに携帯の電源を入れてみれば、留守番電話に簡潔な台詞。ホテル
の名前と、話がある、いつでも待っていますのメッセージ。部屋でリュークと数時間ほど話し合
った結果(正確に言えばリュークが一方的に慰めた)とりあえず、話だけでもと思い足を運ん
だ。
 だが着いてみれば部屋にはL以外誰もいない。月はすぐにでも逃げられるように後ろ手でド
アのノブに手を掛けた。もしこれで、ちょっとここに座ってくださいとか読んでもらいたい資料が
あるのでこちらに来てくださいとか言われたら秒殺するか脱走するつもりだ。
 「私、考えたんですよ。」
 もしかしたら別れるとか?重い雰囲気にちらりと浮かんだ不安をよそに、Lは続ける。
 「私は月君を大切にしたいと思いますし、貴方が怖がるならいくらでも待つつもりです。3回目
のアレは無理やりやろうとした私が悪かったです。謝ります。すみませんでした。でもお願いで
すから連絡だけはよこしてください。とても心配します。」
 そこまで言われると罪悪感が頭をもたげた。つま先をぐりぐりとカーペットに押し当てながら、
もしかして自分たちはこの先ずっと体の関係をもてないのではないかという思いも確かにあっ
た。だが警戒心は解けない。
 「……本当に悪かったとおもってるのか?」
 「思ってます。」
 「靴で蹴ったんだよ?」
 「でも今は怒っていません。」
 「……最後まで……やらない?」
 「絶対にやりません。貴方がいいと言うまでいくらでもまちます。」
 「……………優しくしてくれる?
 「します。約束します。」
 月がちらりとリュークをみる。はいはい、わかりましたごゆっくり、と言って彼はドアをすり抜け
て出て行った。顔を上げ、恥ずかしそうにつぶやく月。
 「じゃあ……していいよ。」
 こうして子猫は犬の懐に飛び込んだ。



 覆いかぶさるようにキスをすれば、自然と月の口があいた。舌をいれてやると、遠慮がちに
月もそれに応える。絡めれば、彼は苦しそうに首を振った。だが、逃がすつもりはない。乱暴に
顎を押さえて、咥内を荒らしていく。余った左手で、衣服を剥ぎ取った彼の肌に触れた。胸の突
起を掠めれば、月の体がびくりと震える。寝室に、ぴちゃっと水気の含んだ音が鳴る。
 唇を離すと、つっと糸が引く。彼の瞳を覗き込んでみると、『別にこのくらいなんともないさ』と
いう彼らしい答えが返ってきそうな目つきだ。だが、その奥には、Lがいつ襲い掛かってくるの
かという不安が窺え知れる。
 いけないけない、怖がらせてはいけないんだった。
 Lは苦笑して、ほんのり色づいた彼の頬を撫でた。
 「……お前も脱げよ。」
 自分だけが脱がされているのは嫌だったんだろう。上だけしか脱いでいないLに不満を漏ら
す。それはさらりと無視して、優しく引き寄せた。押し倒したりはしない。すれば必ず、脱兎のご
とく逃げる。2回目がそうだった。チェストに置いてあったローションを手に取り、指にたっぷりと
垂らす。後孔に濡れた指を這わせると、冷たかったのかびくりと震えた。
 息を吐いて。そうささやいてまずは一本目。異物が入り込んだ感触に、月は眉根を寄せなが
ら目をつぶるが、左右に動かせば、艶を含んだ吐息が耳にかかる。これは簡単だ。次に二本
目。何度か出し入れを繰り返し、中でばらばらに指を動かす。
 「ん……や…やだ…」
 感じているのだろう。前が確かに反応して、先走りの蜜を濡らしている。
 ここまではいいのだ。3回目、ここまでは成功した。その後、強引に入ろうとして蹴られたの
だ。
 あせるな自分、そう言い聞かせながらLは指を引き抜いた。今度はなにをするんだ?目を合
わせれば、じーっとこちらを観察する一対の瞳。目をそらし、チェストにあるチューブを取る。適
量指にとって、中に塗りこんだ。
 「……!?あ…なに……」
 その奇妙な感覚に驚いたらしい。奥まで指を侵入させてから、中を引っかくように折り曲げ
る。ぐっと息を呑む月。なにかを探すような指先は、やがて彼の反応次第で止まる。
 「あ…ああ!」
 甘い悲鳴。どうやら感じるポイントがここらしい。一度止めた指で何度もそこをついてやる。ぐ
ちゅぐちゅと、卑猥な音が薄明かりの部屋に響き渡る。
 「…やっ…あっ……あ…ん…そこ、やめ、ろよ!」
 途切れ途切れに、それでも命令口調な彼。そしてその通り、指を一気に引き抜いた。
 「…ぁ………!」
 「やめろと言ったのは貴方ですよ?」
 意地悪くいってやる。中途半端な高ぶりに、彼は苦しそうに顔をしかめた。
 冗談ですよ。もう一度指を入れるが、今度はポイントを微妙にずらしてやった。案の定、月は
じれったそうにこちらを見る。まるでミルクを待つ仔猫のようだな、とL思う。もっともその仔猫に
欲情している自分はなんなんだか。
 「…おい。」
 「はい?」」
 「さっき…なに、塗った…ん…だ?なんか…塗った所の感触が…おかしい……」
 「バレましたか。いえ、ちょっと素直になる薬を…」
 「…………はぁ?」
 「俗に言う媚薬というやつですね。」
 沈黙。
 ……沈黙。
 「おい!?薬を使うなんて卑怯じゃないか!?」
 「痛いだけじゃ、嫌でしょう?」
 「嘘つき!」
 「嘘なんかつきませんよ。挿れませんからご安心を。」
 「でも……やぁ……!」
 五月蝿いので三本目を捻じ込む。だが、緩慢な動きはけしてイかせるものではない。胸の飾
りに舌を這わせれば、差し込んだ指が締め付けられる。ちらりと見上げれば、なにかとてもい
いたげな目。ああ、この負けず嫌い。けして自分からは『お願い』したくはないらしい。そんな風
に煽る目で見られたら、こっちが一歩引いてやるしかないじゃないか。
 「……月君、限界ですか?」
 「お…お前が…もう我慢できないだけだろ!」
 「じゃあ、私からお願いしましょうか。『お願いします。許しをください。』」
 「………!しょ……しょうがないな……」
 月は目をそらし、顔を真っ赤にした。
 「い…いいよ…」
 「でも、怖いでしょう?」
 「怖くなんかない!」
 「でも、終わった後にやっぱり怖かったといわれると困るので……」
 これくらいの意地悪は許されるはずだ。
 「上に乗ってください。」


 モノの先端を、秘蕾にあてがう。Lは仰向けに相手を見るだけでなにもしようとししない。だが
月も限界のはずだ。震える体で彼はゆっくりと体を下ろした。だが、半分まで入れ終わったとこ
ろで、かぶりを振る。
 「も……無理……」
 ぽろぽろと、ついに彼の目から雫が零れる。だからさ、泣くのは卑怯なんじゃないか?それを
指摘すればきっと生理的な涙だと言って反発するに違いない。それもまた可愛いのだが、今は
自分も余裕がなくなってきた。腰の両脇に手をかけ、一気に押し込む。
 「ひぁ…ああああぁぁ!」
 びくびくっと彼が体を震わせた。全部入ったところで伺い見ると、放心していた。Lは息を荒げ
ながら、
 「……どうか、しましたか?」
 「………ぁ……」
 月は真っ白い肌を朱に変えて、消え入りそうな声でつぶやいた。
 「……挿れられただけで…イッちゃった……」
 そこでLの理性の糸が、ぷっつんした。


 押し倒されて何度も感じる箇所を突かれる。その度に、意識が飛んでしまうのではないかとい
うほどの感覚が、月の体を駆け巡る。
 「あっ……あっ…も…っと…」
 いつの間にか口から漏れるその言葉に、自分自身で耳を疑った。だがもう限界だった。これ
以上自分を壊さないでくれ。この意地の悪い男。最低だ。終わったら口なんかきいてやるもの
か。リュークの嘘つき……。果てしなく身勝手なことを思い浮かべるが、唇から吐き出されるの
は相手を煽るだけの嬌声。男の背中に手をまわし、AV女優のマネを自分がすることになろうと
は……。薬のせいだ。ぜったいにそうだ。こんな風になるなんて、それしか考えられない。
 「イク……!また…あっ…あああっ」
 「……………っ!」
 呻き声一つあげずに、Lは自分の欲望を中に叩き込む。それと同時に、月も鳴きながら腹に
白濁をぶちまけた。焦点のあわない目線でLを見上げていると、優しいキスが自分の唇にふっ
てきた。触れるだけの、軽いものだった。


 猫のようなやわらかい髪を逆撫でしていた。髪が乱れるのが嫌だったのか、月はベットの中
で身じろぐが、追いかけるように腕をのばす。また同じことを繰り返すと、ぎろりっと睨まれた。
いわゆるあれだ。なんだお前、喧嘩売ってるのかコラ。そうこちらを窺う猫のように。
 だがやめない。逆撫でし続ける。それがとてもおもしろいから。
 「卑怯者……」
 「何故です?」
 「薬使った。あんなのナシだ。」
 「でもヨかったでしょう?」
 「薬のせいだ。」
 やっぱりそうきたか。撫でる手を止めて、彼を優しく抱きしめる。
 だが、その優しさとは裏腹に、Lは悪戯の種明かしをしてやった。
 「いやぁ。案外うまくいくものですねぇ。」
 「薬なんか使ったら誰だってうまくいくよ。」
 「いやいや、そういうことじゃなくて。」
 「?」
 「松田もたまには役に立ちますね。」
 「…………?」
 「はい、これなんだ。」
 目の前に出したのは。
 『歯茎に優しいクリア○リーン!ハーブ入り』よくCMなんかでやっている……
 「……歯磨き粉……?」
 「はい。」
 「媚薬じゃない?」
 「はい。」
 「じゃあなんで……」
 「気持ちよかったのは私のテクのおかげで。」
 「つまり……」
 「乱れたのは薬のせいじゃないということです。」
 「なるほど。ははははっv」
 「ははははははは。」
 そして彼は腕を振り上げた。
 「人の中に……変なもん塗るなああああぁぁぁ!!」


 「月……。」
 「いやだ。謝らない。僕は悪くない。」
 「いや、でもな……」
 「あんなやつ知らない。僕は引き篭もりになる。いわゆるヒッキーに……」
 「なあ……」
 「お前も嫌いだリューク。どっかいっちゃえ……」
 机の上でうっつぶす月に、リュークは深々と嘆息した。


 「……竜崎。例の遠い関係のお兄さん。どうなったんですか?」
 「……………。」
 「っていうか、昨日なにやってたんですか?部屋に入れなかったんですけど……」
 「………………。」
 「ところで、その顔、どうしたんです?真っ赤な五本線……」
 「ちょっと……凶暴なサーベルタイガーを撫でたら……引っかかれましてね……」
 「はあ………?」


 可愛い可愛い仔猫が許してくれるのは。
 まだまだ先の話になりそうだ。



こねこねこのここのねここねこ。遊びすぎにはご注意を。



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