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私の恋人は縛られるのが大嫌いだ。
本当はその細い四肢を縛り付け、
私の元から逃げない様にしたいのだが、
自由奔放の我侭な所が彼の可愛いところ。
寛大な私は、彼が他の男と付き合っていても
知らぬ顔で紅茶をすする。
しかし、一つだけ約束を。
「私と松田、男はそれだけにしておいてください。」
僕の恋人は縛られるのが大嫌い。
本当は何処にも行かせず、
僕だけのものにしたいのに……。
それでも我慢して僕はあの男と、
可愛い仔猫を共有する。
でも、一つだけ約束。
「Lと僕以外、男は作らないで。」
僕の上に圧し掛かってたわけだ。
頭痛がする頭を振り、私は彼を冷たい目で射抜く。
「どうして松田に羽交い絞めにされているか、
お分かりですか?」
彼はすました顔で、明後日の方向を見ている。
「服、脱いでみて。」
僕は自分の人生の中で一番冷たい声音で彼に囁いた。
月君は妖艶な流し目で僕を見る。
私は月のワイシャツに手をかける。
そのまま一気に下に引き裂く。
露となった白い肌には、私の知らぬ鬱血の痕跡が、幾つも見つけられた。
「ずいぶんと、可愛がられたようで。」
「君のポケットから携帯番号の書かれた紙を見つけてね。」
しかも手書きだ。そしてこの胸の痕といい確信した。男を作ったと。
それを彼の前にもっていき、ぺちぺちと頬を叩く。
「ねえ、どう思う?ウソつき。」
鮮やかなすり抜けで、月君が僕の腕から消えた。
はっとしたときには彼は出口に走っている。
捕まえようと手を伸ばすが、シャツの繊維に指先が触れただけで、
彼はあっけなく鍵を開け、逃亡した。
振り返ればLと目が合う。
なにをやってる、この馬鹿松田!
しなやかな動きで彼は松田の腕から逃げると、
私たちの前から逃亡した。
捕まえようと追いかけた姿勢の松田と目が合う。
捕まえるのは僕だ。
捕まえるのは私だ。
僕は全速力で、月君の後を追った。
私はすばやく携帯電話を取り出し、ワタリに連絡を取った。
「誰か助けてええええぇぇぇ!!」
月君が少女のような悲鳴を上げる。
ホテルマンたちが、一斉にこちらを見た。
ひるんだ僕を尻目に、月君はまた僕の手から抜け出す。
そして近くにいたホテルマンにしがみつくと。
「あ、あ、あの人が突然!僕の服を!」
ワタリが車を出した頃、目の前を月が猛スピードで通り過ぎた。
しばらくすると、へとへとになった松田が、彼を追いかける。
ワタリは無言でそんな彼等を見送る。
さっきのお返しだ。
様々な人の群集を掻き分け、僕は叫んだ。
ワタリは一部始終を、大通りの片隅で見ていた。
そして停めてある車に足を向かわせる。
洋服売り場を走りぬけ、宝石店を通り過ぎ、仔猫は捕まるまいと必死なようだ。
店の中に入れば追われないと思ったか!?
それは甘い考え。進路変更で遅くなった彼の足取り。
僕はスピードアップして彼に手を伸ばす。
さらりとした髪が僕の指に触れる。
逃がさない。今度という今度はもう許さない。
もう、浮気なんて考えがおきないように、よく懲らしめないと。
さらに手を伸ばすと、彼の速度ががくんっと落ちた。
捕まえた!
と、思ったら。
ワタリは飛び出してきた月を受け止めた。
受け止めた衝撃は相当だったはずなのに、老人はびくともしない。
そしてそのまま車に向かう。
「え?え、えええ?あれ?ちょ……」
僕がよろよろと裏口をあけると、
一台のベンツが僕を馬鹿にするように、目の前を通り過ぎていった。
Lのやつ…他の人間を使うなんて卑怯だ!
一人残った捜査本部。
私は携帯をしまった。
そしてつぶやく。
「……何故、ワタリと連絡がつかないんだ?」
「……どういうことですか?」
ホテルに戻った僕は、Lの言葉に愕然とした。彼は紅茶にぼとぼとと砂糖を入れながら、
「だ・か・ら。」
ぴっと人差し指と中指で例の携帯番号の紙を掲げる。
「女性の電話番号だったんですよ。掛けてみたら。」
『ごめんね、二人とも。僕だって男だから、
女の子と付き合いたいよ。わかってくれるだろ?』
私は携帯越しにそう許しを請う恋人に頭を抱えたくなった。
電話が終わると松田が不機嫌そうに、
「彼の言葉を信じるつもりですか?」
「………………そんなわけないでしょう。ただ、証拠がね……」
苦虫を噛み砕いたような表情で、私は首を振る。
それにしても、ワタリは一体何処へ消えた?
私が首を捻っていると、松田がその答えをくれた。
「お宅のワタリさんが、月君連れて行くの、見ましたよ。」
………………………(大激怒)
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