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人間、わるいことをするといつかはバレるって言うか、やっぱり完璧ってないもんなん
だなーって、月君を見て僕はつくづく思ったね。
いや別に、月君がLに鎖で繋がれていることを言っているわけじゃないよ?彼の犯した罪っ
て、アレだよアレ。アレしかないでしょ、ほら、僕とLとの例のアレ……。
そもそもふざけてない?いや、確かに僕はこの関係をゆるしたさ。ああ、そうさ。たとえどん
なに我侭だろうが引っ掻かれようが二股ならぬ三股をかけられようが、僕は心の広い人間で すから目を瞑ってきたよ?でもさ、だからって平気なわけじゃないわけだ。
やっぱり僕等は彼を心底愛しているわけであり、人間って言うのは一番に愛してもら
いたいからやっぱりどっち?って聞いちゃうわけだ。しかし、のらりくらりとはぐらかし、様々 な言葉を巧みに使い、それで僕等は騙されていたわけだ。
でもね、ある日ある時、彼の本性がぽつりと零れた。
彼は僕らをなんていったと思う?
「なにかって、そりゃ決まってるだろ!」
彼は声高らかに、
「恋人一号、二号!!」
いつから僕等はロボットになった?(考え古いか?)
まあそんな悪い仔猫には、何時も通りお仕置きを…ってなことをしようとした瞬間。
僕らの関係、バレました。
え?今更誰にバレるのか?なに言ってるの、バレて困る人物は一人しかいないじゃない。
お義父様だよ、お義父様!夜神総一郎元局長!!(あえて過去形強調)
ま、別に僕等は本気で彼を愛してるから、いい加減言わなきゃなぁなんて思ってたけど、バ
レて困るのはその息子。
まあ、父親に三角関係をやってましたなんて、言い訳しようがないけどね。
白猫と親猫の戯曲
ホテルの一室で交わされる、恋人達とそれを恨めしく想う父親の会話。
「父さん……」
月は静かに瞼を伏せた。心に痛みを負うように、それを耐え忍ぶように。唇を噛み、食いしば
った部分が痛々しく鬱血している。やがてうっすら瞳をひらき、
「僕は……どちらを選ぶこともできない。理屈じゃない。理屈で愛を語ることなんてできやしな
い。僕はどちらにも同じ量の愛を注ぎ、彼等もそれでいいと言ってくれた……でも、どうやらそ れは僕の思い込みだったみたいだね……。」
儚げな面に悲しみが張り付いている。長い睫に滴が溜まる。それが溢れ出し、細やかな肌の
表面に涙は伝った。
「……月君……。」
隣に座るLはそっと心細い彼の肩を抱いた。松田もまた、小刻みに揺れる彼の手を取り、
「そんなことはないさ。僕等はわかっていたよ。君の思い込みなんかじゃない。」
「本当?」
消え入りそうな、不安げな声で、月は二人に問うた。Lも松田も力強く頷き、
「「もちろん!!」」
「父さん、聞いたかい!?僕等はこの関係で満足してるんだ!お願い!もう、なにも言わない
で……!!」
片手で涙を覆い隠し、腕組をして仁王立ちしている父親にそう訴えかけた。
夜神総一郎は、何度か納得したように頷き、
「で?」
「………チッ。」
「「『チッ』?」」
月の舌打ちに両脇にいる騙されかけた恋人達が疑問系を投げかける。月はそれを無視し
て、涙を振り払った。
「父さん、どうしてわかってくれないの!?僕が憎いの?ならば何故!?嗚呼、僕はそんなに
も貴方の期待に応えられなかったろうか…!でももう、自分を偽ってまで、愛を捨てたくはない んだ!父さん!貴方も母を愛したならば、分かる感情でしょう!?」
「で?」
「つ…つまりその、付き合っちゃったものは今更考えてもしょうがないっていうかまさかこんな
関係になってまで別れるっていうのもなんていうかつまりその……その……」
「で?」
「ええっと…起こってしまった過去を今更振り返ったところで現在になにか役に立つわけでも
なくできれば未来に向かってもっとポジティブな考えを……」
「私が聞きたいのは、」
つらつらと言い訳を連ねる息子に、総一郎はやはり冷たい目線のままで。
後ろにソファがあるにもかかわらず床に正座させた3人に向かって、
「お前の言った、『恋人一号、二号』の意味はなんなのかということなのだが…。」
「知らないの、父さん!?今の流行語ではそういうのがあるんだよ!!」
「で?」
「うう……全て僕が悪かったですすみませんでしたああぁぁぁ」
今度は本当の涙をだーっと流し、月は深々と頭を下げた。
総一郎はしばらく半眼で3人を見回し、Lと松田に問う。
「で?お前達二人は月のことをどう思ってるんだ?」
「「もちろん、心底愛しています!!」」
「……二股だと分かっていてか?」
「「いつかは(僕)(私)と決めてくれると信じていますから!!」」
二人揃って仲良く声を合わせるLと松田。総一郎はしばらく気まずそうに黙った後、
「まあ……つっこみたい意見は色々あるんだが…この際、それは置いておこう。月。」
逃げようとして足が痺れていることに気がつき床でのた打ち回る息子に、総一郎はやはり冷
たいまま、
「二人はこう想っているにもかかわらずお前は『一号・二号』と名づけた。私はお前をそんない
い加減な男に育てた覚えはない。」
「だって父さん!!」
足を押さえながら月は叫んだ。
「この二人がどうっっっっっっしてもっていうから、僕は付き合っていたわけであって、そんな風
に僕が怒られる筋合いは……」
「へえ。」
「月君、そんなふうに僕らの事思ってたんだ?」
「う……」
二人にそう言われ、月は言葉に詰まる。そろそろ彼の本性が、見え隠れし始めた。総一郎が
肩を震わせ、月の発言に怒りを露にしている。
まずい。このままだとひっじょーにまずい……。
そう判断した月は、どちらを味方につけるか決断を迫られる。信じあった恋人達か、その場し
のぎの戦力の父か……。
だが、月だって欠片も彼らのことを愛していなかったわけではない。むしろ、様々な障害はさ
ておいて、彼等からもらった愛情は心地よかった。それを手放せないからこそ、いままでずる ずると関係をひっぱってきたわけで、それを嫌悪する父を味方につけるということは、彼等を裏 切ることでもあるのだ。
だからこそ、彼は決断した。
「父さん!信じて!僕は騙されていたんだ!」
とりあえず、父をとってみた。この勝負で二人を味方につけるよりも、父を丸め込めたほうが
早いと決めたのだ。
「僕がどちらか取ろうとすると、二人が酷いことをするんだ!」
「なっ!?」
「月君!?」
Lと松田が裏切り宣告の発言を聞き、驚愕する。月はそんな二人の足をつねって黙らせる。
足が痺れてのた打ち回る二人を無視して、
「酷いんだよ!とても怖いんだ!特にベットの中で……恥ずかしいプレイしたり…縛ったりして……。
だから僕は……しかたなく(おい、竜崎、そんな風にのた打ち回ってるからって鎖ひっぱるな、 僕が痛いだろ)……ええっとごめんね、なんでもないよ!しかたなく僕は彼等と付き合ってるん だ!もしこれで…どちらか選ぶなんてことになったら…僕はこの二人に何をされるか!!だか ら…(ちょっと松田さん、今、足当たった。痛いからあっちでのた打ち回っててよ)……ええと、ど こまで話したっけ?そうそう!だから、別れるうんぬんの話をするんであれば二人としてね!」
「……………………………………。」
総一郎がまったく信じていない目で、3人を見つめる。
「信じてないでしょ!父さん!なら、証拠見せるから!!」
たたたっとモニター画面に近づき、その内の一つを操作する。そして、あるシーンが画面いっ
ぱいに映し出される。
『あっ……やぁ…だ…。ふた、り、ともぉ…やめて……』
甘い嬌声。まさかこの映像を見せるほど、自分は追い詰められていたとは。月は心底父の恐
ろしさを身に沁み、その画像から視線を逸らした。
『痛っ……やだ……やめてよ……ね…、あああッ…』
「ね……分かってくれたでしょ?」
「…………………。」
『松田さ……やめて……やっ、竜崎……ッ!』
「あの……そろそろ消していい?」
「…………………。」
それはついさっき監視カメラで撮られた映像なのだが、父はまったく動揺した素振りを見せ
ず、さすがに月も慌てた。ふと、後ろを見てみると。
馬鹿丸出しで、モニターをじーっと見ている恋人達がいたので顔面にストレートパンチを食ら
わせた。その間に、父が早送りボタンに指を添える。
見る者を虜にしそうな情事が終わり、そして3人がベットの上でなにやら話しているシーンに
移る。父はそこで画像を通常に戻し、音量を一気に上げた。
そして最悪の場面。
『なにって、そりゃぁ決まってるだろ!』
月は声、高らかに。
『恋人一号、二号!!』
「で?」
「うううううううう………。」
この発言の理由になってない理由を言い続けてきた息子は、ついに追い詰められた。恋人
達はがしっと月の両脇を抱え、
「諦めろ、夜神月……。」
「月君、よくも顔面、殴ったね。」
「ううううううううううううう……」
月は頭を抱えたくても抱えられなくて。
そして、ついに切れた。
「だああ!うっさいな!もう!!」
がこんっと両脇の恋人達の顎にアッパーを食らわせ、月は目の前の父に食って掛かった。
「なんだよ!父さんなんか…父さんなんか……!!」
「なんだ?なにが言いたい?」
威厳ある父は、憤慨する息子を睨みつける。
月は目に涙を溜めて、
「父さんなんか……昔、4人の男の人たちと同時に付き合ってたくせに……!!!!」
ずざざざっがたがたたたたっ
周りの人間が、あまりの爆弾発言にしりもちをついて後ずさった。今まで動揺の『ど』の字も
見せなかった父が、青ざめてイスにぶつかる。月はさらに、
「知ってるんだぞ!中学生の時にはすでにプレイボーイとあだ名がつき、高校生の時に二
股を経験!その頃から男性にもモテるようになり大学でついに同時に4人の男性と付き合 うことになったって!さらにさらに、警察官になってからは、『お誘い』が毎日のようにあり、し かし母さんを見て一目ぼれ!以来、母さんには頭が上がらず、もし今度別の男・女と付き合っ たら離婚という危機に晒されているって……!!」
「ら…月…やめろ…やめてくれ…昔のことだ…頼むから…」
「そしてこれが、父さんの昔の写真だ!!」
ばんっと父の前に出した一枚の紙切れは、白黒の古めかしい写真。そこには、若き日の夜
神総一郎とその取り巻きが映っている。
松田とLが、がばっとその写真を覗き込み、
「うわっ!月君、そっくり!!」
「というか、お義父様のほうが美形…?」
「竜崎、なんか言った?」
「なんでもないです…ってこの周りの男達……」
ゆっくり二人が、汗だくだくの総一郎を見て、
「……これ全部…彼氏?」
「父さん!」
きっと月は父を見て、そして宣言した。
「母さんに、これを未だに、後生大事に持ってること、言うからね!」
「私が悪かったああぁぁぁ!もう、もうなにもいわん!お前達に関しては何も言わないから!
だからそれだけはたのむからやめてくれえええぇぇ!!」
父の泣き声が、捜査本部の部屋に響き渡った。
「……で、二人ともvよくも僕を見捨てようとしたねv」
「いやだって……」
「月君から僕らを裏切ったじゃないか…。」
「馬鹿じゃないか?お前等。たとえ裏切られても僕に従うのがコイビトってやつでしょ?」
「いや、たぶんそれは恋人ではなく…下僕というんじゃ…。」
「ってか、何故にカタカナ?」
「黙れ、貴様等v」
「月君……実は記憶戻ってたりとか?」
「ねえ…頼むから…バットを振り上げちゃいけないよ……というか、そのバット、どこから?」
「ワタリさんがくれたv」
「「……………………………。」」
「覚悟はいいか?お前等v」
「……月……あんまり苛めすぎると男は逃げてしまうぞ。」
「うん、気をつけるよv父さんv」
逃げ惑う犬達を、白猫が凶器片手に追い掛け回す。
演技派仔猫は周りを巻き込み、ひたすら自分の我侭を押し通し。
やがて捕まった二匹の犬は、思う存分仔猫に引っかかれたとさ。
おしまい。
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