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まず、下の文章をさらっと読んでみてください。反転はまだ、しないでね。
嗚呼、それは壮絶なる……
午後の日は穏やかに部屋を暖め。
艶のある木製テーブルに広げられたお菓子。湯気の立つ紅茶と珈琲。真っ白い皿と、籠いっ
ぱいに詰まったスコーン。3人の男たちはそれを眺め、執事は黙々とお茶会の準備に取り掛 かっている。
窓から零れる日差しが、緩やかな時を感じさせた。注がれた紅茶が、ゆらゆらと揺れてい
る。珈琲から香ばしい薫りが気持ちを落ち着かせる。開けたててのジャム瓶から、甘い香りが 漂う。ただそれだけの、これ以上に無い至福の時間。
「それにしても……」
松田はにこにこしながら、珈琲にクリームを注ぐ。
「捜査中にこんな優雅な午後のお菓子を楽しめるなんて、絶対に無いでしょうね。」
「ですよね。」
月もまた、優しい笑顔で向かいに座る松田に同意した。Lはあまり美しいとはいえない量の砂
糖を紅茶に沈めながら、
「ワタリが選んできてくれるケーキは、いつだって美味しいんですよ。他の捜査員達が居ない
間に、3人で食べてしまいましょうか。」
「あははっ、竜崎はさっき食べたばっかりじゃないか。」
月は軽やかに声を上げる。
ワタリは、そんな彼らを柔和な笑顔で見つめ、
「丁度良かった。今日行った店で3つしか買えませんでしたので。」
「今日はなに買ってきたんですか?」
松田が何気なく尋ねる。ワタリは白い紙箱を開き、
「ミント・シフォンケーキが2つ。モカ・クレームブリュレは一つしか買えませんでした。」
その瞬間、松田は笑顔で固まった。
(はあ!?今なんつったこのじいさん!!)
Lもまた砂糖を入れる手を止めて固まった。
(そのシフォンケーキ、まずいっつったじゃん!!)
月もまた、笑顔を若干引き攣らせた。
(Lがそうやって褒めるから、この人買ってきちゃうんだよ!やめろよ変態爬虫
類!)
彼らは笑顔できっかり3秒後にまた各々の行動を続ける。
月はブラック珈琲を一啜りして、
「そうだなぁ…僕、どっちにしようかな?」
(絶対僕、クレームブリュレ食べるから、テメェら口出しするんじゃねぇぞこらっ)
松田はクリーマーをテーブルの中央においた。
(あ、このクソガキ一人で逃げるつもりだ!この間自分は食べなかったくせに!!)
Lはようやく砂糖ポットの蓋を閉める。
(もう嫌だ。私は絶対にそれは食べない!何が何でも食べない、食べないからそんな目で二
人して私を見るのは止めろ!私は甘けりゃいい訳じゃないんだぞこの野郎!)
(なんだよLの意気地なし!こうやって僕が見つめてるんだから食えよ!)
月は一度、ケーキの一つを見て、そしてLを見る。松田はそんな二人をじっと見ている。
(だから見るなっつってんだろ!松田も見物人を装うな!)
「……ワタリ、お前。ここのケーキ屋好きですね。」
紙箱に描かれた店の文字に気がつき、Lが尋ねる。
月はまだ、じっとLを見つめていた。
(あ、今こいつ話し逸らそうとしてる……最悪だ……)
(っつーか話し逸らすぐらいなら、きっぱりと言ってやれよ竜崎。お前の執事だろ。)
松田もまた、Lと月が気になるのか、ちらちらと盗み見ている。
ワタリは何度か頷き、
「はい、私もここの店が好きなので。それに、ここのは美味しいと言われたので。」
(自分が好きだからって他人に勧めるなー!ワタリ!)
(誰!?誰なんだよ、美味しいって言った馬鹿は!L!?いや、首振ってるな…じゃあ…!)
(え……もしかして……この間ボクが言ったこと間に受けてるとか!?)
(松田の馬鹿ー!/目で罵倒)
(松田さんの馬鹿ー!/目で罵倒)
(わかんないじゃん、まだ本人の口から聞いてないよ!?/目で反論)
月は小首を傾げてワタリに問う。
「それって、誰が言ったんですか?」
(うっわ、月君、さっそく確信に……)
(マジで?マジで?ボク本気じゃなかったんだよー…)
「松田さんですよ?」
(はいっ決定!本日の生贄は松田さんにけってええぇぇぇぇい!/心の中で拍手)
(おめでとう、松田!今回もお前に決定だ!/心の中で拍手)
月は苦笑して、
「じゃ、松田さんにはこれ。」
ミント・シフォンケーキを差し出す。松田は満面の笑みを浮かべて「どうもっ」と受け取った。
(あー…もーいいや。でも次は絶対に食べないから……)
(次も松田に食わせよう)
(次も松田さんだ。)
残るケーキはクレームブリュレとシフォンケーキ。Lが素早く手を伸ばした。月は、
「あっ、ゴメン!」
(熱ー!!)
月がのばした手によって、熱い珈琲がLのほうにぶち撒かれる。小刻みに震えるL。おろおろ
と月はハンカチで拭いながら、
「ご、ごめんね!ごめんね!熱かったよね?」
(あ、今、月君。さりげなくクレームブリュレを自分のほうに持ってった。)
(この男は………………!)
「……気をつけてくださいね。」
Lは冷たく月の手を払いのける。今にも泣き出しそうな顔をしながら月は、
(ざまぁみろ!この僕より先に手を出すのが悪いんだよ!!)
ふと、残ったシフォンケーキを見て、自分のほうに引っ張った。
(!?どうした、夜神月!罪の意識に自分から毒に手を出したか!?←大袈裟)
(いや、この子は絶対ににそんな自己犠牲を持ち合わせているわけが無い!とすると…)
青年は頬を少し赤らめて、恥ずかしそうにフォークで生地を切ると、ぷすっと刺してLの口に
持ってった。まるで熟した林檎のように、白い頬を染めた彼は、上目使いで囁く。
「はいっ、竜崎。あーんして。」
(キタ━━━━━━( ̄□ ̄;)━━━━━━ !!!!!/松田)
(キタ━━━━━━(T□T;)━━━━━━ !!!!!/L )
(でた!月君の十八番!都合の悪いことは他人に可愛く押し付ける作戦!!)
(嫌だー!もー嫌だー!鎖外したいー!!)
松田は目を見開いてカップを取り落としそうになった。
「……どうしたの?竜崎、食べないの?」
(食うかぼけー!!)
(竜崎、諦めなよ……月君、目が据わってるよ。)
Lは差し出されたそれを、まじまじと見つめる。ペパーミントの香りが、ふわっと鼻先を掠め
た。
「ほら、竜崎。あーん。」
「……………………。」
なにか罠を仕掛けられたような目付きのL。月は早くおわらせてくれと言うように、
「竜崎……早く、口あけてよ。」
「…………………!!」
そして月は、すっと凍結しそうな目付きで竜崎を睨みつける。
表情は、告白をする少女のような初心さだ。
「食わんかい、こらぁ」
ヤクザ声で言った。小さく。小さく……
周りは、なにを呟いたのかはわからない。
Lはむっと口を尖らせた。
(あーっくそ!なるようになれ!)
ぱくっ
ごふっ
(竜崎ー!吐いたー!?←食えっつった人)
(あ、やっぱし吐いたか…ちょっとだけど…←食わした人)
なにもコメントがないL。月はあせあせと彼の顔を覗き込み、
「……りゅ…竜崎……」
「………………。」
「はい、あーんしてv」
(鬼だ━━━━━━━━━━━━ !!!!! )
(この悪魔!悪魔め!だめだ口開くと吐きそうに……!)
(あ、今こいつら僕の悪口いってるな……ボコる……)
もっと可愛らしく言った月。次いで何故か彼は、こんな提案をしてきた。
「竜崎、ちょっとトイレ行こうよ。」
「………え?」
(殴る気だ。絶対に殴る気だこいつ!)
「竜崎……」
「嫌で…」
「こいや。」
「はい。」
なにやら二人は小声で話をまとめると、そそくさと立ち上がる。呆然としている松田にも、月
は、
「松田さん。ちょっと来て。」
「ヤダ。」
「こいや。」
「ヤダ。」
月が松田の足を踵で踏む。
「来・る・よ・ね?」
「はい。」
なにやら二人もひそひそ話をした。そして3人は立ち上がる。
彼らが去ったお茶会の席は、芳香な香りに包まれて、また3人が来るその時を待ち望んでい
るかのようだ。
ワタリは行ってしまった3人に首を傾げながらも、冷めてしまった時のために、暖かい紅茶と
珈琲を淹れ直した。
暖かい木漏れ日が差す、ある日のお茶会の出来事……。
遠くで、二人の悲鳴が響いたのも知らずに。
そして余談だが。
「ふう……あと一枚で旅行券が当たりますね…。」
貯めに貯め込んだケーキ屋のシール。不味いと知りながらもシール欲しさにワタリが通い詰
めていたことは。
誰も、知らない。
はい、やけに空白が多いなぁ、と思った方。
Lたちの口調が崩れるのは嫌、という方は…ちょっとまずいかも(笑)
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