「もしもし、竜崎?今から会いたいんだけどだめかな…?」
艶のある甘い声に誘われて私は直ぐに車を出させた。










another prey
















ホテルの一室の扉を開けると月はいきなり私に飛びついてきた。
突然の事に驚いて彼を引き剥がすとふわっと笑みを浮かべる。
「竜崎、来てくれたんだね。」
いつもの何倍も糖度を増した声にくらくらと眩暈を覚えた。





「どうしたんですか、月くん。こんな時間に。」
ふらつきそうな足下に力を入れて私は問いかける。
「別に…具体的に何かあるってわけじゃないけど…会いたくて。」

答えながら足をもじもじと動かす月。
それを見て改めて私は眩むような感覚と
体が熱を持つ感じを覚える。
「つ、月くん。なんで今日はシャツ一枚なんですか?」
全身を見渡してやっと気づいた。
今日の彼は上半身に大きめの白いシャツ一枚だけを羽織っていて
下には…何も履いていない。
そのため月が足を動かす度白い太腿が目に焼き付いて。



ちらちらと奥が見えそうになる。



「え、あ、ちょっと、ね…」
いつもの偉そうなつんとした雰囲気と変わって
はにかんで私を見つめる月が愛おしくて嗜虐心を煽られる。

「…下着は着けてるんですか?」
左手で月を抱き締めながらシャツの裾を捲ると丸い柔らかな尻が現れる。
それを転がすように揉むと月がこちらを見上げる。
「竜崎…。」
私の名前を呼ぶ唇の瑞々しさに誘われて熱を移すようにキスを仕掛ける。
そのまま窪みを指の腹で探ると其処は蜜を垂らしていた。

「月くん、もしかして一人でしてたんですか。」
周りを指でつぅっと撫であげると月がびくりと反応する。
「んぅ…そうだよ。」
ひくつく中に指先を挿れて壁を刺激する。
「こうやって一人でしてたんですか?」
「あっ、あぁ…」
訊くと月の体内はきゅうっと収縮して
また液体を垂らしていく。
汗で湿った肌に手を滑らすと月自身は高ぶっていく。

「もっと動かしてほしいですか?
言わないと最後までしてあげませんよ?」
月のとろんとした瞳は虚空に視線を彷徨わせる。
「あ、りゅうざき、…早く中に…。」
私の体にくたりを体重をかけてそう求める彼に
非道く欲を掻き立てられて、
一気に己の欲望を侵入させる。

「あっ、ああっ!」
待ち構えていたように月の体内が蠢く。
生理反応とは真逆の奥へと引き込む動き。
「あぁっ、あぁっ、あぁっ、あぁ…」
月は本能のままに髪を振り乱して体をガクガクと動かす。
変貌を遂げた彼の荒い呼吸を耳元で感じ
私は腰をグラインドさせる。
粘膜の絡み付く音に羞恥心を煽られた月はより感度を良くする。

「あぁ…りゅうざき、あ、あ、イッちゃう…!」
理性を完全に飛ばして後孔を私のモノに
押しつける月を見て私は目を細める。





そんな彼に性を煽られた私は小さな悪意を向ける。










際限なく溢れるどちらのものとも分からない体液が
彼の中から滴り落ちて私の下腹を濡らす。

「あぁっ、やだ、うぅっ、ん、竜崎」
月はその美しい双眼から涙を零し呻く。
「そんなに嫌ですか?なら、もう止めましょうか?」
態とらしくそう訊いて自身を引き抜こうとすると、
肉壁はうねるような動きで私を捕らえる。

「や、ちがっ、そうじゃなくて」
月は頭を横に振りながら頬に幾筋もの涙を流す。
「何ですか?言ってくれないと分かりませんよ?」

敢えて彼を見上げてさもおかしそうに問うと、
月が渋々、というように呟く。

「ん…だからっ、もう…お願い、もう取って…」
何回も体を重ねているのに
未だ恥じらいを捨て切れていない月は
顔を羞恥の色に染めて視線を地に遣る。

そんな彼の姿に私はふう、と息を吐く。
「…はい、しょうがないですね。
月くんのお願いなら何でも聞きます。」
そう言うと、彼は期待を孕んだ瞳で私を見つめる。





甘いですね、月くん。
私がそんな質のいい人間では無い事はとっくに知っているでしょう?





心の中でそう言って、私は悲しそうな顔を作った。

「と言いたいところですが、今日はすみません。
月くんが余りにも可愛いので我慢出来ません。」

予想外の私の言葉に月は目を白黒させる。
「え、うそ…あっ」
その時彼を襲う何度目かもう数えられない波。

「やだっ、う、う、あ、あっ、でるっ、でる!」
何度もポイントを突くと月は切ない声をあげる。
自身は何度も限界を迎えるのに解放は訪れない。



それは戒められている。
偶然ポケットに入っていた紐できつく縛り付けて。



「う、ぅう、ん…あ、おねがい…」
意識があるかないかの状態でひたすら解放を渇望する月。
そろそろ許してやってもいいかもしれない。

「…いいですよ、しかし条件があります。」
「な、なに…?」
「もう、こんな風に私を利用するのは止めてください。」
彼の根元をぎゅっと握ると、月は「ひっ」っと声を上げる。

「な、なんのこと…?」
ここまで来ても月はシラを切り続ける。
「はぐらかしても無駄ですよ。」
更に低い声で忠告する。
「貴方のその不自然な今日の様子、
ちらちらとドアを気にしていることに
私が気づかないとでも思ってるんですか?
不愉快です。」
そう言えば彼は私に許しを乞うと思った。

しかしそれは間違いで。



彼は薄れゆく意識の中で極上の鮮やかな笑みを浮かべた。

「ふ…うそを、つくなよ」
突かれ続けて息を乱しながらも月は喋る。
「竜崎はっ、こういう僕が好きなんだろう。
だからこんなお遊びにも付き合ってる、うっ、あっああ!」
「相変わらずの減らず口ですね、月くん。
いいでしょう、反省しないのなら最後までこのままです。」
そう告げても月はもう私の言葉には返事をしない。
「やっ、やめろ、あ!ああっ、んあぁぁ!!」



前立腺を攻め続けられた月は遂に意識を手放した。










「これで満足ですか、月くん。」
目を閉じる月の顔に私はぽつりと言葉を落とす。
「…そうだね、ありがとう竜崎。」
目をパチリと開くと月は綺麗な顔で言う。

「起きてたんですか…。」
私が戸惑っていると月はさっと立ち上がる。
「竜崎、もう出て行ってくれないかな?
松田さんの事が心配だし。」
そう平気で抜かす月も彼に思いやられる松田も憎たらしい。
結局私は夢を見る事も出来ず彼の行動に振り回されるだけだ。

「また松田ですか…」
自分でも無意識にそう言うと月は憐れむような目で私を見る。
そして私の頬に唇を触れさせる。
「ごめんね、でも竜崎のことは好きだよ?」
首を傾けてにこりと笑う。
私はそれを無視して彼の顔も見ずに外に出る。










私はそんな言葉は信じない。
夢を見る人間は端から見れば只の馬鹿でしかない。



しかしそれでもそんな馬鹿にどこか羨望に似た気持ちを抱くのは、
私も錯乱しているからだろうか。





彼という泥濘に足を取られて。












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