華の亡骸 キヌ様の作品


埼玉県の『大』と『宮』という漢字がつく都市。雑居ビルが立ち並ぶそこに、一つの探偵所があ
った。

1、2階部分は住居となっており、3階が事務所となっている。

 

その2階の自室。

ニアは鼻先をくすぐる柔らかい髪に、睡魔から浮上した。

目を開けると飛び込んでくる、幼い月の寝顔。

まだ15歳の成長途中の白い裸体を晒し、ベッドの上で自分に密着している月。

ニアがきつく抱きしめているのだから、密着するのはあたりまえなのだが。

どちらかというと月は距離を取りたがっているように、ニアの胸を両手で押し返す体勢なのだ
が。

そんな都合の悪いことは、気づかないふりをするのに限る。

両腕に力をこめ、ニアは月の小さな頭に頬擦りをした。

 

昨晩は可愛かった。

普段から可愛いが、嫌だ嫌だ泣きじゃる姿は別格だと思う。

手を縛り、目隠しをして。

一言も喋らずに体を解して、挿入。

五感の動きを妨げられれば、いつもより過敏に反応する。

どこからくるか分からない刺激に、身悶え。

抵抗すら許されないことに、嫌がり。

口を開かない自分に、困惑し。

正常位で奥まで挿入して、やっと目隠しと拘束を外してやると、

『んぅ・・・ニ、アぁ・・・・』

と、甘えた声で名を呼ばれた。

安心したように微笑み、嬉しがって自分の首に腕を回して。

・・・嗚呼・・可愛い・・・っ!

 

「んっ・・・うぅ〜ん・・・・」

 

ぎゅうぎゅうぬいぐるみのように抱きしめると、月は唸って逃れようと体を揺らした。

が、そんなこと許すニアではない。

逆に呻き声と睡眠中の熱い体に昨晩を思い出して、放っておこうと思った朝の生理現象がます
ます元気になる。

さて、理由はなんにしようか。

 

「・・・そうですね・・・。一番下っ端なのに、私より遅くまで寝ているから、で。」

 

ニアは一人御仕置き理由を呟くと、月のまだ少し泣き腫れている目元をべろぉっと舐めて。

シーツの下に隠された、柔らかい双球に手を伸ばしていったその時。

ガチャ

 

「ニア、月君。どちらでもいいので、朝ご飯作りなさい。」

「・・・・・・」

 

ノックもなしに戸が開かれた。

爽やかな朝なのにくっきりと隈を浮き上がらせて、猫背で入り口に立つ男。

月をこの腕に抱いているのに、ニアはシュルル・・と萎えていく自身を感じた。

 

「・・・う?・・・んん・・・・エ・・ェル・・・ぅ・・・?」

「ッ・・今日はメロが当番のはずですが。」

 

やばい、起きられる。

覚醒しだした月をシーツごと守るように抱きしめ、ひそめた声で言う。

悲しいことに、目を覚ました月は自分の元から逃げていくのが分かる。

早く失せろ、と睨むニアに、Lはムニムニと唇を揉んで、ああ、と抑揚のない声を上げた。

 

「メロね。・・・メロは、死にました。」

「死っ!?死んだ!?」

「うっ!・・・うぅ・・・ニアぁ・・・?」

「なので、ご飯作りなさい。」

「あ!L−っ!」

「っ!待て!」

 

耳元で叫ばれうにゃうにゃ唸った月は、Lの声にパチ!と大きな目を開いた。

そしてベッドから飛び起きて駆け出そうとするのを、ニアは慌ててシーツに包み押さえつける。

 

「この男に裸を晒すな!」

「ニア、見えてますけど。」

「見ないでください!というか、人の部屋に入るときは、ノックぐらいしろ!」

「人の部屋って・・・私のビルです。」

「うー!うう!うぅーーっ」

 

頭から足先までシーツに包まれ、芋虫のようにもがく月をベッドに縫い付けて。

隠す物のなくなったニアは、全裸で、ん?と首を傾げる。

そういえばなんか変なこと言った。

 

「・・・死んだ・・・?」

「月君も、もうすぐ死にそうですよ?」

「・・月君”も”?」

「だんだん動きが鈍くなっているようですが。」

「・・・メロが死んだ・・・?・・・・・・・・・え?」

「あ。動きが止まりました。・・・では、ニアが朝ご飯で。」

 

早くしてくださいね、と言って、Lはドアを開けっ放しで立ち去っていく。

Lが自ら自分を起こしにくるなんて珍しい、どころか初めてだ。

・・・・と言うことは、本気でメロが死んだ?

 

「・・・え?」

 

ニアは呆然とドアから覗く廊下を見つめた。

・・・酸欠状態の月を押さえ込んだまま。

 

 

 

「メロ!・・ぐぇ!」

 

メロが寝ているベッドに駆け寄ろうとする月の襟首を摘み、動きを防ぐ。

本日二度目の窒息を起こしかけた月は、カエルのように呻いて脇のニアを見上げた。

メロの部屋の入り口で立ち止まり、ニアは苛々と指に髪を巻きつけている。

紛らわしい、あの男め。

 

「・・・風邪なら風邪って言いなさい。」

「ラ・・イト・・・俺・・・死んじゃ・・・」

「メロ!メロ、大丈夫!?」

「二代目、うつったら面倒だから、傍によるんじゃありません。」

「じゃっ・・げほっ・・だ、れが・・・看びょ・・・」

「人間には自己治癒能力があります。自分でどうにかしなさい。」

「そんな!可哀相だよ、ニア!」

 

うるうると大きな目で見上げられて、ニアは溜め息混じりに指を離した。

途端に駆け寄る月の後に続き、のんびりとベッドに近づく。

ベッドの上、高熱でうーうー唸っているメロ。

弱っている人間に、ニアは容赦なく刃物のような言葉を浴びせる。

 

「何が死ぬ、ですか。大げさな電話して。いつもいつもヘソ出してるから、自業自得でしょうが。

 それに朝、二代目の部屋の内線したつもりかもしれませんが、Lの部屋に繋がってたみたい
ですよ。

 おかしいですねぇ。・・・そんな馬鹿が風邪引くなんて。」

「う・・うぅ・・・おまっ・・・えぇ・・・」

「・・・嘘ですよ。心配してます。・・・大丈夫ですか、メロ?」

「・・・ニア・・・」

「高熱で不能にならないといいですね。」

「っ!?」

「不能?不能って何?」

「頭はもう不能ですから、下まで不能になったらさすがに可哀相です。」

「・・・頭が不能・・・。馬鹿ってこと?」

「使えないってことです。」

「なるほど。」

 

納得しやがった!とツッコミたいが、頭がくらくらして言葉にならない。

熱で朦朧としているメロに、ニアは仕方がなさそうに再度溜め息をつく。

メロが電話をかける相手を間違えなければ、Lが心配してメロを見に行けば。

あの朝一が邪魔されることはなかったのだ。

ニアだって心配していないわけじゃない、ただちょっと鬱憤を晴らしたかっただけ。

言うだけ言ってすっきりしたニアは、ベッド脇に跪いている月を見下ろす。

 

「・・・これ以上使えなくなるのは困るので・・・。二代目は今日一日メロの面倒見てあげてくださ
い。」

「うん!メロなんか食べれそうなものある?作ってくるよ。」

「・・・ぅ・・・チョコ・・・チョコがいい・・・」

「死ね。」

「ニア!酷いよ!死刑囚だって最後は好きなもの食べれるんだよ!?」

「・・ラ・・・ィ・・・最後じゃ・・・ねぇ・・・っ」

「棺おけには花の変わりに板チョコ詰めてやるから、安心して逝きなさい。」

 

この馬鹿が、と吐き捨て、ニアはメロの部屋を出て行った。

 

 

何で私がこんなことを、と苦々しげに顔を歪める。

月に看病を任せようかと思ったが、本気で板チョコを与えかねない。

ニアは手早く作ったお粥を器に盛り、水、薬と共に、お盆に乗せた。

 

「・・・ニア、私はお粥なんか食べませんよ。」

「Lっ!・・・あっ、貴方の食事は少々待ってていただけませんかねえ・・・っ?」

「そういえば、月君もメロも姿が見えませんが・・・。死体の処理は足がつかないようにしてくださ
いね?」

「死んでませんよ!」

 

Lの人でなしっぷりに食って掛かりたいが、今は可愛い・・くはないが弟が高熱に魘されている。

罵りを心の中に抑えて、ニアはお盆を持ってメロの元へと向かった。

お粥を食べさせて、薬を飲ませて、寝かしつけて。

氷枕を代えるぐらいは、月でもできるはず。

馬鹿馬鹿と脳内で繰り返しつつ、片手でメロの部屋の戸を開く。

 

「メロ、お粥・・・」

「あ、ニア!」

「げっ!」

「・・・あっ・・・前らああっ!!」

 

シーツの中、メロに覆い被さり、片手に食べかけのチョコを持つ月。

メロの口の端についているチョコ、赤い舌で自分の唇を舐め取る月に、何をしていたかなんて
言われなくても分かる。

ガチャアアンッ!とニアはお盆を床に投げ捨てると、肩を怒らせてベッドへ歩み寄った。

ビクビク目を反らしているメロの上から、月を床に落とす。

 

「痛っ!何で怒るの!?」

「・・・何で・・・?分からないんですか?・・・メロは分かりますよねぇ?」

「え・・・えぇと・・・う!ゲホッゴホッ!」

「わざとらしく咳をするな!仮病なのか!?」

「本当に熱あるよ!だって口の中も体も熱いもん!」

「へぇ・・口の中も体も・・・下半身も?」

 

凍てつく視線で見下ろすと、メロはモゾモゾ隠すように体を横にした。

人が心配してるっていうのに!

苛々髪を巻き取っているニアに、メロは小さく掠れた声を出した。

 

「・・・ごめん・・・もうしない・・・」

 

分かってる。

メロも自分と同じように月が好きで、優しくされたから嬉しくて調子に乗ってしまったのだろう。

本当に風邪を引いて、辛い思いをしてるのだ。

熱で気が弱くなっているのだから、少しぐらい月に甘えても仕方がない。

・・・・とは思わない。

 

「・・・本当にもう出来ないようにしてあげましょうか・・・?」

「っ!?ごめっ・・ごめんな、さいっ!」

 

地を這う声で”何を”とは言わずに脅すと、察したメロは怯えてブンブン首を振った。

そしてそれで眩暈がしたのだろう、バフッと枕に頭を沈める。

もうちょっと怒ってやろうと思ってたが、辛そうに眉を寄せる姿に気が咎めてしまう。

自分もまだまだ詰めが甘いようだ、とニアは床の上の月へ顎で指示を出した。

 

「・・・二代目、台所からお粥持ってきてください。」

「分かった。・・・けど、ニアが落とさなきゃ済んだ話じゃない?」

「・・・口答え・・・?」

「取ってくる!」

 

ジトっと眇めた目で尋ねると、月は逃げるように部屋から去る。

本当に生意気な弟たちだ。

 

一階の台所で、残ったお粥を注いで持ってくる。

10分もかからないだろうと思われたその作業。

だが月は30分経っても戻ってこなかった。

 

投げ捨てたお盆とその残骸を片付け、ニアはメロのパソコンデスクの椅子で苛々と髪を弄る。

自分の風邪が原因で機嫌が最悪なニアと、一緒の部屋で沈黙が続いて。

風邪が悪化どころか胃まできりきりしてきたメロは、恐る恐るニアに声をかけた。

 

「・・・月、遅くねぇ・・・?」

「遅いですが。・・・私にわざわざ見に行けと?」

「や!違っ・・・そうじゃなくて・・・いや、でも・・・」

 

びくっと震えるメロに、ニアは仕方がなさそうに立ち上がる。

これ以上メロに当たっても可哀相だ。

メロだって好きで風邪を引いたわけじゃないんだし。

食事を取らせて、早く休ませたほうがいいだろう。

鬱憤は月を苛めて晴らそう、と目標をチェンジさせてニアは台所へ向かった。

 

「二代目、遅いで・・・?」

 

が、月はいない。

台所には冷め切ったお粥と、汚れたままのフライパンとボウル。

ボウルに残った小麦色のドロっとした液体を舐めて、ニアの額にぴきっと血管が浮き上がる。

ニアはボウルを流しに放り投げ、三階の事務所に向けて駆け出した。

 

「二代目!?」

「ニア。・・・どうしたの、息切らして?」

 

窓際の自分の席に座っているLは飛び込んできたニアを一瞥して、すぐ机の上に視線を戻す。

そこには甘ったるそうなホットケーキ。

椅子の背もたれごとLに抱きついてる月も、一瞬ニアを見ただけですぐ視線を戻した。

 

「ね、L、美味しい?」

「・・・まあ。」

「やった!お代わりいるなら言ってね?すぐ作るよ。」

「二・・・二代目・・・メロのお粥は持って来いって言いましたよね・・・?」

「うん。でもLがお腹空いたみたいだったから。」

「・・・病人のメロより、健常者のLを優先したんですか?私の言うことを無視して?」

「Lが食べ終わったら、メロのところに行くよ。」

「そんなんでいいと思ってるんですか!?メロはいわば貴方の兄のような存在でしょう!?

 熱で魘されている可哀相なメロを放って、私の命令を無視して、そんな男を優先!?」

 

・・嗚呼、何で今日はこんなに苛々するのだろうか・・・。

ニアは俯いてふるふる震えた後、近寄って月の腕を掴んだ。

 

「来なさい。・・・御仕置きです。」

「え!?い、嫌ああっ!嫌、嫌!Lぅうう!!」

「いいから早く!今回に限っては、本当に二代目が悪い!」

「今回に限ってって、ならいつものはどうなの!?」

「煩い!」

「L−−−っ!!」

 

助けを求める悲鳴も空しく、ずるずると月はニアに引きずられて事務所から姿を消した。

 

 

ああ、そうか。

ニアはふいに、自分が苛々していたわけを悟った。

普段なら、今日みたいに見っとも無く声を荒げたりはしないはずの自分。

手を縛られひんひん啼く月を見て、心が落ち着いていく。

朝、御仕置きしようと決めたのに、それが出来なかったから苛ついていたのだ。

なーんだ、とニアはすっきりした表情で、月へと顔を近づけていった。

 

 

食べ終わった皿をそのままに新聞を読んでいたLは、外線とは違う音で鳴る受話器を持ち上
げた。

耳に当てると、はぁはぁと荒い息で苦しそうな声。

無言でその訴えを聞き、Lは一言。

 

「御仕置き中です。」

 

そう言い放って、受話器を置いた。

 

 



 キヌ様から頂いた、『L探偵事務所』……v
 ゴロ番をとったリクということで……書いてもらいました!

 うはぁ(おやじくさい…)素敵だ……。
 ニアがSだ!それを上回るほどのLも素敵で……!
 月がかわいい!かわ、かわいいぃぃ!
 一番かわいそうなのはメロです(笑)でも奴はかわいそうなのが似合うのでおっけーv(え?)
 キヌ様!ありがとうございました!




トップへ
トップへ
戻る
戻る