黒い夜に赤い月の莉砂さんから頂きました!















 ぐれいしあぶるーのはね




 「う…嘘だ!」

 記憶の中の自分が、悲鳴をあげる。

 「嘘だ!お…お前以外に、誰がいる!?マットを……苦しめて……苦しめて…殺したのは…
…お前だろ!?お前なんだろ!?」

 そういって、ただ泣き叫び、抵抗も出来ない弱い少年の首を、絞める。


 「お前だって言えよ!でなきゃ……なんのために俺……ここまで……お前を殺そうと……嘘
だ…嘘だ嘘だ!嘘だ!」

 繰り返されるのは、そんな場面。


 人間なんかに、戻りたくなかった。
 戻りたく、なかった。
 これから先も、こんなに辛いことが起きるのならば
 いっそ、この首をへし折って、自分も死んでしまえば


 「いいよ。」

 あの時
 ニアの声は、聞こえなかったのに
 夢の中の友人は、微笑んで答える。

 「一緒に……死のう?」





 そして世界は暗転し、暗闇の中、ニアの声が自分の耳に入ってきて

 「どうして……?」

 苦しそうに、涙ぐむように、ニアの声が掠れていて

 「どうして……貴方だけ、生きているの?

 約束したのに

 一緒に、死のうって

 ねえ?」

 暗闇で立ちすくむ自分の腕を、誰かが掴む。振り返れば、あの時と同じ微笑で、ニアが泣い
ていた。


 「どうして貴方だけ……幸せなんですか?」






 はっと息を呑み、メロは目を覚ました。恐ろしさに身を震わせ、周囲を見渡す。ここが、ハル
の家だと思い出し、ソファから体を起こした。
 眠ってはいけないと体に言い聞かせるのに、時々自分の隙をついたように、睡魔は意識を闇
へと引きずり落とす。眠ってはいけない苛立ちを募らせ、月に当たったこともある。メロは息を
吐き、先程見た夢に涙した。
 「めろ?」
 涙を拭っていると、幼い声音で呼ばれた。ふと顔を見上げてみれば、部屋の隅にニアがい
る。手元のブロックを意味なく積み上げ、首を傾げていた。
 いや、この子をニアと呼んでいいものか。メロはちょいちょいっと手招きすると、ニアは無邪気
に駆け寄り、ソファに乗っかった。
 頭をなで、考える。体つきは、推定6歳。精神はもっと低い。死神の言葉を話せるが、それも
まだまだ拙かった。
 「ニア。羽、出してみな?」
 メロがそういうと、素直に従う子供。音もなく背中から生えたそれに、メロはそっと指を這わせ
た。
 この子を、ニアとして見ていいのか。この、グレイシアブルーの羽を見るたび、悩んでしまう。
自分のものよりも遥かに美しく、そして壊れやすい羽に触れられ、ニアは擽ったそうに笑った。
それは、一枚の薄いガラスのような素材である。それが羽の形をして、幼い子供の背中から生
えていた。美しいけれど、奇妙な姿。人間に羽は生えていない。この子は、死神。
 「めろ?どうしたの?いたいの?」
 泣いているのを、どこか痛いからだと思ったのだろう、ニアの小さな手が、メロの頬を撫でる。
大丈夫だよといいたいのに、胸から切ない想いがせりあがった。
 「ニア。」
 「ん?」
 本当に、お前は
 お前は
 「ニア、なのか……?」
 質問の意味が分からず、ニアは首を傾げる。
 もしもこの子がニアでないとして
 そうしたら
 自分だけが、生き残ってしまったことになる
 メロは歯を食いしばる。今の夢は、ニアの願望か。本物の、ニアが、どうして一緒に死ななか
ったの?と泣いているのか。
 だとすれば、自分は約束を果たさねばならない。今、掴み取っている幸せを静かに放し、ニア
の元に行かなければならない。
 それが、とても怖かった。
 「めろ?めろ……?」
 再び泣き出してしまったメロに、幼い死神は困惑する。その時だ。震えている体を、誰かが後
ろからそっと抱きしめた。
 「メロ……どうしたの?」
 振り返れば、月の姿。
 「怖い夢……みたの?」
 うん、と頷き、月に擦り寄る。その存在を確かめるように、月に縋りつくメロ。
 いやだ
 この幸せを、手放したくない。
 「月……」
 「うん?」
 ニアが、メロたちのことを不思議そうに眺める。
 「本当に……ニアは……ニアなのかな……」
 月は黙った。答を聞くのが怖くて、メロはそれ以上何もいえない。
 「……そうだよ。」
 その答えは、しっかりとした声音だった。メロは首を振る。
 「でも……この子は……ニアに見えない。本当のニアはやっぱり死んでいて、俺を……俺の
ことを……待ってるんじゃないのかな?」
 「それは、違う。」
 月は断言する。メロが顔を上げると、月はまっすぐとニアを見つめていた。
 「この子は、ニアだ。それは確かだ。お前が、メロであるように。だって……この子は、僕の名
前を覚えていてくれた。」
 そうして、メロに笑いかける。
 「お前のことを……好きになってくれた。」
 だから、この子はニアだよ。その言葉に救いを求めるように、メロは泣く。
 グレイシアブルーの羽を持った幼い死神は、ただ首をかしげながら、そんな二人を見つめて
いた。





黒い夜に赤い月の莉砂さんからいただきました!
うわ〜い!4枚もかいてもらっちゃいました!
ニアが……かわいい……v幼いニア、大好きです。
本当に、ありがとうございました!



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