Space Operaの七介様ら頂きました!




―――ガツッ。

何かが掃除機の先に当たり、月は「ん?」と首を傾げた。






         カラリハレルヤ






別に我が侭を言っているつもりはない。
あれが欲しいこれが欲しいと要求はするけれど、それらは全て日常生活を送る上で必要なも
のばかり。

そもそも生活空間ではなかったこの部屋には、極端にものが少ない。けれど鎖で繋がれた自
分は、24時間この閉鎖的な空間だけでの生活を余儀なくされているのだから。
だから多少は快適に過ごせるよう、意見を言うのは当然。

そして今回月がメロに頼んだのは、「掃除機」の購入。
どんなに気を付けていても、目には見えなくても、埃やゴミは知らない間に溜まっていくもの。
今まではままごとのような小さなホウキと、元々はフェイスタオルだった雑巾とを組み合わせて
何とか掃除をしていたのだが、やはりそれにも限界がある。

毎日入ってくれるハウスキーパーに頼めばいいのだろうが、自分が生活する空間くらいは自分
で掃除をしたいのだと主張して、他人事のように首を傾げるメロを説き伏せて。

漸くやって来たその掃除機を片手に、もうこの際徹底的にやってやろうと、普段は見て見ぬフリ
をしているベッド下の狭いスペースにまで掃除機の頭を伸ばした―――その時。
何かが軽く掃除機の先に当たって、月は「ん?」と首を傾げた。

しゃがみ込んで覗き込めば、何か薄いものがそこに隠れているのが見える。
思いっきり手を伸ばして何とかそれを掴み、光の下へと曝け出すと、出てきたのは―――薄っ
ぺらい・・・本。

「・・・・・・おい」

何だコレ、と自分一人しかいない空間で、月は誰に言うでもなくドスのきいた低い声で呟いた。

まぁ年頃だし、分かる気はするけれど。
だけどこんな分かりやすい・・・ある意味定番と言ってもいいような場所に隠すなんて。
これで本当にLの後継者候補だったのかと、その子供っぽい行動に思わず乾いた笑いさえ零
れる。

―――グラビア誌・・・と言うよりは寧ろ、立派なエロ本と言った方が正しいだろうそれへ、剣呑
とした瞳で視線をやって。
月はそれを元の場所に戻そうと手を伸ばしかけたところで少しだけ考え、何気なくパラパラとペ
ージを捲ってみた。

豊満な金髪女性が真っ裸であられもない格好を晒し、妖艶な笑みを浮かべている・・・そんな写
真が延々と続く。
あいつこんなもの見てるのかと思うと、何故か少しだけ腹が立つ。

毎日毎晩、人の都合なんかお構いなしに押し倒すくせに、こんなもの見てるのか。
―――僕と言うものがありながら、こんなものを。

「・・・・って、何だソレ!」

ふつふつと湧き上がってくるドス黒い感情に気付いてハッと我に返った月は、自分で自分にツ
ッコミを入れる。

別にメロがエロ本を隠し持っていようがいまいが、自分には関係のないことだ。
別に恋人同士でも何でもない。それどころか―――。

ブンブンッと頭を横に振り、取り敢えず平静を取り戻そうと深呼吸をして。
それでもやはり、何処か面白くない感は拭えない。

「・・・・・・・・」

瞳を細めて、視線をやり。
少し考えてから月はあらん限りの力を込め、それを―――まるで雑巾を絞る時のようにぎゅう
ぅっと握り潰した。






「たっだいまー。聴いてくれよ月、今日ハゲの奴がさー」

うひゃうひゃと笑いながら部屋の扉を開け、いつものように月の姿を捜そうと視線を泳がせて。
部屋の雰囲気がいつもと違うことを敏感に察したメロは、「あれ?」と瞳を瞬いた。

「・・・・ただいまー。・・・・・月?」

いつものようにソファーに腰掛けて雑誌を読んでいる月に声をかけ、帰ったぞーと主張すると。
一瞬・・・ほんの一瞬だけ心なしか鋭い瞳でメロを見た月が、おもむろに立ち上がってその顔に
にっこりと笑みを浮かべた。

「おかえり。お腹空いただろ? 夕食にしようか」
「お? おお」

何か違和感を感じながらも月の後についてキッチンに向かい、言われるがままに皿やスプーン
やフォークやらをテーブルへ運びながら、メロは窺うように月の顔をちら見する。

別に普通・・・だ。普通と言うか、普通を装っていると言うべきか。
やっぱり何処か違和感が拭えずに、メロは首を傾げる。

そんなことを考えている内に月がテーブルに並べていた料理に視線を落として、―――メロは
絶句した。

「ッ・・・ら、月・・・・・」
「何?」
「・・・・何、って・・・・・何?」

引き攣った顔で、恐る恐るテーブルを指差して。
火を通していなければさほど匂いもない筈なのに、それでも確かに食卓から立ち昇って来るよ
うな気がするその匂いに、うっと吐き気すらこみ上げる。

「好き嫌いばかり言ってると、Lみたいに顔色の悪い大人になるから。・・・・・たまにはいいだ
ろ?」

そう言って、にーっこりと満面の笑みを浮かべる月。
その笑顔を見、確実に怒ってる・・・とメロは確信する。

本日の食卓に並ぶメインデッシュは―――色のコントラストが美しいピーマンと人参、パプリ
カ、キャベツに、それから茄子・・・・と、兎に角沢山の野菜、野菜、野菜。それらをぶつ切りにし
て自然の素材をそのままに、豪快に大皿に盛っている。
野菜嫌いな自分に対しての嫌がらせとしか思えないような、そんな料理。

月が普段食卓に野菜を出す時は、メロが気付かないくらい小さく刻んだり、目に入らないよう何
かの中に隠したり、そう言ったことをしてくれるのに。
これはちょっとあんまりだろうと引き攣った顔のままで抗議すると、すうっと瞳を細めた月が冷
ややかに吐き捨てた。

「―――じゃあ食べるな」

そう言って一人席に着き、ぱくぱくと野菜を口に運ぶ月を見、一体何を怒ってるんだと溜め息
にも似た息を吐いて。
何気なく部屋の中を見回したところで、メロは床の上に無造作に転がったあるものの存在に気
が付いた。

「あれ、これって・・・」

近付いて、何故か捻れるように歪んでいるそれを拾い上げ、何でこれがここにあるんだ?と首
を傾げる。
しばらく姿を見なかったから、知らない間に捨てたのかと思っていたのに。

「―――随分とベタな隠し物だな。お前が巨乳好きだったとは知らなかったよ」
「は?」

食事を取る手は休めずに、こちらへ視線を向けることもなく。冷ややかにそう呟いた月の言い
がかりに、メロは二度三度と瞳を瞬いて。
それから漸く全てを悟り、あぁ・・・と息を吐いた。

「違う違う。これはハゲがくれたもので」
「あぁそう。じゃあロッド=ロスがくれたエロ本を、後生大事にベッドの下に隠してたってこと
か?」
「だから、違うっつーの。俺まだ読んでないし」
「まだ、ってことは、いずれ読むつもりなんだな?」

何でそうなるんだよ・・・と肩を落としたメロは、やけに絡んでくる月へと向き直った。

「俺こう言うあからさまなのは興味ねーよ。第一ハゲがこれくれたの、月がここに来る前だし」
「・・・・どうだか」

女っ気の全くないメロを心配して・・・と言うよりは寧ろ面白半分だったに違いないが、男だった
らこう言う本の一冊くらいは持っておくべきだとロッドにからかわれ。
男のプライドを刺激されたメロは引くに引けなくなってしまい、乗り気はしなかったが貰って帰っ
て来たのだ。
未だに目を通していない、半ばその存在すら忘れかけていたこれが、今更こんな形で自分に
害を及ぼそうとは思ってもみなかった。

メロは金髪の頭をがしがしと掻き、それから当然の主張を月にぶつける。

「あのなぁ・・・。―――月はここに来てから、一歩も外に出てないんだぞ?」
「当然だ。だから?」
「メシ食う時だって風呂入る時だってずっと一緒で、その間俺がベッドの下からソレ取り出して
読んでたことがあったか!?」
「・・・・・ない、な」
「だろ? だったら何も問題ねーじゃん」
「・・・・・・・」

記憶の糸を辿りメロの行動を思い返して、確かに・・・と月は頷いた。
いつだって自分にベタベタベタベタくっついてばかりで、この部屋にいる以上一人になる時間は
メロには存在しない。・・・・まぁトイレとなると話は別だが、でもそんな短い時間に人の目を盗ん
でそれを読んだりは・・・してないだろうと思い至る。

思案する月の姿を見、ふと思い立ってメロが言葉を続けた。

「あれ、何? もしかしてこれってヤキモチか?」
「はっ!?」
「月妬いたんだろ? 自分が居るのに何でこんなの読んでんだ、って」
「べ、別に・・・」

そんなんじゃない、とそっぽを向く月の顔は、耳まで真っ赤に染まっている。
嘘をつくのも演技をするのも巧いくせに、こう言うことに関しては途端に不器用になる月が物凄
く愛おしいと―――メロは心からそう思う。

「・・・・不安だった?」
「・・・・別に」
「素直じゃねーの」
「うるさい」
「月が居たら必要ねーだろ、こんなの」

メロは笑って言って、手の中のそれをゴミ箱に投げ捨てて。
それからおもむろに月に近付き、その華奢な身体を後ろからぎゅうっと抱き締めた。

「月が居たら―――他には何もいらない」

Lの名も、何もかも。
―――ただ、月が傍に居てくれさえすれば。

幾度か聞かされたその言葉。本心から言っているだろうそれを手放しで喜ぶほど、月は愚かで
はないけれど。

「・・・・メロ」
「ん?」
「―――重いからどけ」
「やーだね。このままヤる」
「はあ!?」

肩口に顔を埋めるメロの頭を押し退けようと手を伸ばしたところで、逆にその手を掴まれてちゅ
っと口づけられる。

「月が可愛いこというからムラッと来た」
「ばっ・・・馬鹿か! さっさとどけ!」
「おっ断りー」
「メロ! っ・・・ちょ、あっ・・・・!」

不用意な自分の態度と発言を後悔する暇もなく、いつの間にか前に伸びていたメロの手がす
るりと月のズボンの中に滑り込んだ。自身を性急にまさぐられて、ぴくんと月の顎が上がる。

その手の動きに何故か少しだけ安堵している自分がいるのは―――認めたくはないが確かな
事実。
メロに引き摺られる。そんな展開、これっぽっちも望んでなかったのに。

(―――早く逃げないと・・・)

そうしないときっと駄目になる。―――きっと。
情が移って? 殺せなくなって?
そんなことになったら自分は一体どうなるんだろう。

頭の片隅でそう思うのに、身体は味わい慣れた感覚に確かな反応を示すから。
その口から漏れる喘ぎに忌々しげに眉をひそめて、月はぎりっと唇を噛み締めた。





(終)





Space Operaの七介様から頂きました!
月が……月が……v
思わず、かわいい〜!と抱きしめたくなるような(私がやったら変態です)可愛さです。
これでは、メロだって監禁したくなりますよね!ね!
七介様、ありがとうございました!


トップへ
トップへ
戻る
戻る