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えーっとさ。
今、僕はホテル内の捜査本部にきてるはずだよね?
っつーか、ここは犯罪者を捕まえるために集まっているメンバーだよね?
でもさ。僕の目の前にいるのは、恋人1号、2号……!
いや、訂正。Lと松田さん。僕は一応、Lの隣に座ってるけど、向き合っているのは松田さん
なんだよね。そしてLに寄ると松田さんがものすごい形相で僕を睨むし、松田さんと目 を合わせるとLが爪割りそうな勢いで噛んでるんだよね。
いや、こうなったのはそもそも。
この三角関係が二人にバレたのだ。
ってことは自業自得じゃないかボケ?うるさいな。わかってるよ……。
でも僕はキラであって、捜査状況を知るために捜査員たちに近づくのは当然じゃないか。
え?それならそんな今にも胃に穴が開きそうな顔をしなくてもいいんじゃないか?いや、それ は……やっぱ……けして欠片も愛がなかったわけでは……ない……かな?
んー、つまり。僕が言いたいのは。
只今僕等は修羅場を迎えているのだ……。
犬と仔猫とお兄さん
かちゃかちゃ、かちゃり。
かちゃ、かちゃり。
僕はただひたすら下を向きながら、コーヒーのスプーンをかき混ぜていた。
隣とには、只今火花を散らしている二人がいた。
「いやぁ。月君ってば、意外と可愛いところがあって。鼠を見た瞬間飛び跳ねて僕の腕にしが
みついてくれたんですよ。」
松田さんが、怖いくらいににこやかに、そんなことを話す。
「可愛いのは当然ですよ。なにしろ私の恋人ですから。」
対照的にLは、怖いくらいに冷静に、世間話のように話す。
でも、二人が共通して言えること。
目の奥が怖い……。
僕は彼等のことを出来るだけ見ないことにした。
さっきからずっとこんな調子だ。
部屋に入った瞬間、二人はすでに睨みあいになっていた。僕はそれを見て「喧嘩するなら帰
る。」と、先手を打ったところ、彼等は先手後手関係なくはっきりこういった。
『月君、逃げたらとんでもないこと(しますよ)(するよ)?』
………どないせいっちゅーんじゃぼけぇ!!
とはさすがに言えず。
いつまでテメェら睨みあいしてんじゃコラァ!!
ともさすがに言えず。
この状態が1時間26分続いている。あと4分あればキリがよかった。
父さんが心臓発作おこした気持ち……今ようやくわかります……。
松田さんはぴくりっとLの恋人発言に頬を引きつらせた。でもそれだけだ。
「へえ。恋人だったんですかー。初めて知りましたよ。知ってました?僕も恋人なんですよ?」
がりっ。L…そんなに爪噛むと血ぃでるよ……。
「ええ、もちろん。でも、私は心が広いので、許していますよ。」
「浮気が発覚したとき3日間も月君をおしおきと称してイジメてた人は心の広いうちに入るん
ですかー。へえー。僕の知らない間に世の中色々変わったんですねー。」
「言ったんですか?月君。」
うわぁ。胃に…胃に穴があく……。Lの冷たい言葉が僕の横から降り注ぐ。
松田さんはそんなLに、
「やだよねぇ、月君。こうやっていつまでも昔のことをつつく女の腐った男って。こんなのが恋
人じゃ、月君も大変でしょう?いっそ一人に決めてみない?」
とかいいつつ、あんたも言葉が冷たいぞ。
肺から息を搾り出すように、僕はとりあえず謝ってみた。
「ご……ごめんなさい……」
「月君、謝ることはないんだよ!だって必ず僕を選んでくれるって信じてるから。」
「月君、私はもう怒っていませんよ?恋人の一度や二度の不貞。それを許せるぐらい寛大な
男でなければ、貴方の恋人は務まらない。」
なんか勝手なこと言ってるよこいつ等……。
リューク……別にこれは僕の命が危ないとかキラ人生に関わるとかそんなんじゃないから、
友達として僕を助けてくれるよね……っててめぇ!観賞用植物わざとらしく見てるな!怖がる な!死神だろ!
「月君、なに余所見をしているんですか?」
突然顎をつかまれ、無理やりLの方向に顔を向けられた。がちゃんっとスプーンが落ちる。横
目で松田さんを見ると、血管を浮かばせてる。
「竜崎。気安く僕の恋人に触らないでください。」
「これは失礼。そういえば、月君。私があげたあの指輪。どうしました?」
Lが手を離して尋ねてくる。ふふんっと松田さんは鼻で笑って。
「そんなの、外したに決まってるでしょ?月君は物でしばられるのが大嫌いなんですよ。そん
なことも知らずに恋人やってたんですか?」
え…えーっと………(大汗)
Lは僕の首筋に触れる。摘み上げたのは銀のチェーン。この男らしくもなく、にっこり笑って、
「ああ、リングだと目立つからチェーンで通して首にかけていたんですか。お似合いですよ。」
松田さんには指輪は『外した』ことになっていたので、当然のことながら彼はキレた。
すくっとソファから立ち上がって。
「月君!!」
な……なんだよ!?ついに別れろってか?もういいよ!この状況なんとなるならなんとでも!
「もう我慢できない。僕と竜崎、一体どっちがいいんだ!?」
うわぁ、そっちですか。
「なに、大声出しているんです?月君が怖がるでしょう?月君、後ろに下がってなさい。」
ついでに逃げてもいい?
『そっちは出口(だよ)(ですよ)、月君。』
だからなんでこんな時だけ二人でハモるんだよ……
「大体、彼と初めに付き合ったのは私なんですよ?」
「昔は昔、今は今。僕のほうが彼を愛してます。」
「どんなに愛していても、それを相手が受け取らなければ意味のないこと。そう、私があげた
指輪のようにね。」
「嫌がるものをあげた所で、喜ばなければ意味がない。僕は彼が嫌がることはしない!そう
だろう!?月君!」
「たとえ嫌でも、愛している相手ならばそれを甘んじて受け入れる。それが本当の愛でしょ
う?月君。」
……………。
………………。
…………………(怒)。
「だああああぁ!もう、うっさい!お前等!」
逆ギレした僕に、びくりと彼等がビビる。構わず、僕は珍しく怒鳴り散らした。
「いいじゃないか!どんな理由でもどんな経緯でも、僕は…どっちもいいの!それがわかって
て松田さん、僕と付き合ったんでしょ!?」
「う…………。」
「Lも!それでもいいって僕を許したじゃないか!」
「それは……。」
押し黙る二人に僕はキレ続ける。ああ、みっともない。いつもみたいに冷静に対処すればい
いものを。1時間37分もの拷問に耐え切れず、僕の堪忍袋の緒は切れた。
「考え直してやっぱりこんな関係嫌だと思うなら別れればいいよ!それをこんなぐちぐちぐちぐ
ち!僕は…僕は………!」
それ以上言えず、僕は俯く。そして、1オクターブ低い声で、こう宣言した。
「わかった……」
『え?』
「別れる。」
『え………!?』
二人同時に驚愕の声を上げるが、そんなものかまわない。もう耐えられない……!
「別れてやる!もう、お前たちなんか知らない!キラの捜査だけ手伝いにくる!」
あー、スッキリした。
と思ったその瞬間、Lが僕の右腕をがしりと掴んだ。
「言いましたね……」
「え……?」
今度は僕が問い返す番。左腕を松田さんがしっかり抱え込み。
「逃げたらとんでもないことするよっていったじゃないですか。」
笑顔だ。晴れやかな笑顔だ。
「僕、月君が来る前に竜崎と話し合ったんですよ。」
「はい?」
「ええ、そうなんです。口で言い争って月君が勝ったと思ったら負けたほうが潔く身を引く。も
し、話し合っている最中に月君がどちらかを選んだら選ばれなかったほうは身を引く。もし、あ と23分経っていれば、時間オーバーで勝負は後日。そして……もし、話し合っている最中に月 君がキレたら……」
「勝負はベットの中でということになったんです。」
「……ええええ!?」
「しかも、貴方は一番、言ってはいけないことを言った。私は傷つきましたよ。」
「僕も傷ついたよ。月君、考えが変わるまで、今日は3人で……ってことだね。」
ずるずるずる。そのまま二人は僕を引きずって、寝室の中へGO……。
「ちょっと待った!今、考えが変わった!だから……モゴッ!?」
「はいはいはい、黙りましょうね、月君。」
「そうだよ。もう、諦めなよ。」
二人で僕の口を押さえ、問答無用で連行されていった。
なんだ!?なんなんだよこの連携プレー!!騙したのか?僕は墓穴を掘ったのか?しかも
それに自ら飛び込んだのか?
リューク!助けて……っててめぇ、ばいばいがんばってとか手ぇ振ってんじゃない!
そして僕は………。
まあ、4時間19分後。色々なことがあって。
僕等は服を着てもう一度、部屋に戻ってきた。
ちなみに、僕の前に座る二人の顔には真っ赤な五本線がある。これについてはまた後日お
話しするということで。
「……私、決めました。」
なにさ、L。もう僕はなにを言われても驚かないよ?
「今日限り、松田さんについてはなにも言いません。それでよろしいですか?」
「……竜崎はそれでいいのか?」
「ええ。もちろん。私は優しいので……。」
いま、強調したなこいつ……。ちらりと横にいる松田さんを横目で見て、
「まあ、そちらがどう判断するかは別な話ですが……」
「もちろん、僕もそのつもりですよ。竜崎。」
あ、松田さん、笑ってるのに目が笑ってない。怖いよ、それ。
結局、ベットの中で勝負がつかないということで、僕等の関係はこのままということで話がつ
いた。
「月君。竜崎はホテルから出れないだろ?出かけるときとかは僕に言ってよ。」
「別に出れないわけじゃないですよ?月君、用事があったときには必ず私の携帯に連絡をく
ださい。」
……ついた……と、思う。
「竜崎ってば、無理しないほうがいいんじゃなですか?キラが怖くで外に出たくないんでしょ
う?臆病者(ぼそり)」
「いいえ。おそらく月君が用事の時には貴方にはかならず上司から雑用が言い渡されるの
で。もちろん、誰からの指示かはここでははっきり言いませんがね、この負け犬野郎(ぼそっ)。」
「女の腐った奴。」
「エセ紳士。」
「変態。」
「大馬鹿野郎」
あー、リューク。最近の観葉植物って綺麗なもんだねー。僕びっくりだー。
『月君、現実逃避しない(でください)!!』
……はあ。
「二人とも……。」
『はい?』
「今すぐ黙らないと、顔の5本線が10本線に増えるよ?」
『すみませんでした。』
僕が爪を掲げたのを見て、二人は素直に謝った。
犬とお兄さんが仲良くなるのは。
まだまだ先になりそうだ。
むしろ、仲良くなるのかな?
お進みください。
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